Story

警備会社の隊長が、会社の目標を自分の言葉に直すまでに、一度つまずいた話

警備会社 隊長・40代前半 評価・給料

期初の朝礼で、隊長の増田は、会社の目標を読み上げた。

「今期は、契約件数を前年の一・一倍にする。以上だ」

隊員たちは、頷いた。誰も、質問をしなかった。

三か月が過ぎても、何も変わらなかった。


中間の面談で、若手の隊員に聞いた。

「今期の目標は、覚えているか」

「契約件数を、増やすことです」

「それで、お前は、何をしている」

隊員は、少し黙った。

「……いつも通りの、巡回です。契約は、営業の仕事だと思っていました」

増田は、反論できなかった。自分の言葉で、隊員の仕事に直していなかった。会社の言葉を、そのまま渡しただけだった。


その夜、増田は、紙に三行を書いた。

会社は、契約を増やす。うちの隊は、既存の現場で、信頼を積む。隊員は、現場の担当者に、困りごとを一度ずつ聞く。

一行目が会社で、三行目が、隊員の仕事だった。

翌朝、増田は、隊員一人ひとりに、担当の現場を割り振った。

「今月は、自分の現場の担当者に、困っていることを聞いてきてくれ。件数は、一人三件でいい」


最初の月に、集まった困りごとは、十二件あった。

駐車場の夜間の死角。新しく入った社員への、案内がない。巡回の時間が、搬入と重なる。

増田は、そのうち四件を、営業に渡した。

二か月後、営業の担当が、増田に声をかけた。

「隊長の隊の現場から、追加の依頼が二件来ました。夜間の巡回を、増やしたいそうです」

増田は、その数字を、朝礼で読み上げた。

「契約は、営業だけの仕事じゃなかったな」

隊員の一人が、小さく頷いた。

この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。