Story
建材商社の係長が、報告を30秒に削って、一度失敗した話
朝の定例で、山本の報告は、いつも三分を超えた。
「先月の件ですが、発端はですね」と山本が話し始めると、課長の目が、手元の資料に落ちる。
山本は、それに気づいていた。気づいていて、止められなかった。経緯を飛ばすと、あとで「聞いていない」と言われるのが怖かった。
ある夜、山本は、本で読んだ「30秒で言い切る」を試すことにした。
翌朝の定例で、山本は三つの案件を、一件ずつ一文にした。
「A社の納期は、来週金曜に決まりました。B社は、見積もりが未返信です。C社は、変更ありません」
十五秒で終わった。
会議室が、静かになった。
課長が、顔を上げた。
「B社の返信がないのは、何日目だ」
「……四日目、です」
「なぜ、四日も放っておいた」
山本は、答えられなかった。経緯を削ったとき、「四日目まで動けなかった理由」も、一緒に消えていた。
席に戻ってから、山本は、ノートを開いた。
削ったのは、経緯と、言い訳のつもりだった。でも、課長が聞きたかったのは、「どこが止まっているか」と「次に何をするか」だった。
B社の件には、その二つがなかった。
失敗だった、と山本は思った。短くすれば伝わるわけではない。
翌週の定例で、山本は、B社の件を三文にした。
「B社は、見積もりが四日、未返信です。先方の担当が出張中のためです。今日、代わりの担当に電話します」
課長は、頷いた。
「結果は、午後に聞く」
それだけで、終わった。
三十秒にするために必要だったのは、短くすることではなかった。「止まっていること」と「次の一手」を、話す前に決めておくことだった。
経緯は、聞かれたら話す。聞かれなければ、話さない。
その線引きが分かるまでに、山本は、定例を二回、失敗した。
この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。