Story
研修会社の課長が、1on1の質問を十個用意して、二個に減らした話
藤田は、1on1の前の晩に、質問を十個、書き出した。
最近の仕事の調子は。困っていることは。チームの雰囲気は。キャリアの希望は。上司への要望は。
準備をしておけば、沈黙は、避けられる。そう信じていた。
三十分の1on1で、藤田は、十個を、順番に聞いた。
部下の斉藤は、一つずつ、短く答えた。
「調子は、まあまあです」
「困っていることは、特にないです」
「チームの雰囲気は、いいと思います」
最後の質問が終わったとき、時計は、二十分しか進んでいなかった。
「他に、ありますか」
「いえ、特に」
藤田は、満足して、1on1を終えた。質問は、全部、聞けた。
数日後、同僚の課長に、言われた。
「斉藤くん、藤田さんとの1on1は、面接みたいだって言ってたよ」
藤田は、返す言葉がなかった。
家に帰って、質問のメモを見直した。十個のうち、斉藤が、自分から話した質問は、一つもなかった。
次の1on1で、藤田は、質問を、二つだけにした。
「最近、いちばん時間がかかった仕事は、何でしたか」
斉藤は、少し考えて、答えた。
「先月の、研修資料の修正です。クライアントの要望が、三回、変わりました」
藤田は、二つ目の質問を、飛ばした。
「三回も。そのとき、どうしていましたか」
斉藤が、話し始めた。
三十分は、あっという間に、過ぎた。
藤田が聞いたのは、一つだけだった。残りは、斉藤の話を、聞いた。
終わり際に、斉藤が言った。
「今日は、いろいろ、話せました」
藤田は、書き出していた二つ目の質問を、結局、聞かなかった。メモの余白に、斉藤の言った言葉が、増えていた。
質問を、減らすのは、難しかった。ただ、減らしたほうが、聞けた。
この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。