Story
通信販売会社の主任が、上司との1on1で、3つ全部聞いてしまった話
三十分の1on1は、月に一回あった。上司の部長は、毎回、冒頭に言った。
「何か、聞きたいことはある?」
そのたびに、小野寺は、「特に、ないです」と答えていた。ないわけではなかった。何を、どこまで聞いていいのか、分からなかった。
ある日、小野寺は、聞くことを三つに決めた。優先順位。期待していること。評価の基準。
どれも、聞かれて困る質問ではないはずだった。
次の1on1で、小野寺は、一気に言った。
「いま、何を優先すべきか。部長が、私に何を期待しているか。評価は、何を見て決まるのか。この三つを、教えていただきたいです」
部長は、ペンを持ったまま、止まった。
「……三つ、いっぺんに来たな」
「すみません」
「いや、いい質問だ。ただ、十五分では、答えきれない」
部長は、優先順位の話だけを、した。残りの二つは、「次回にしよう」と言った。
小野寺は、帰り際に、気づいた。部長は、答えるために、考える時間が要る人だった。質問は、聞くほうの都合で、詰め込んではいけなかった。
次の月、小野寺は、一つだけにした。
「部長が、私に期待していることを、一つ教えてください」
部長は、少し笑った。
「一つなら、答えられる」
部長の答えは、短かった。
「会議で、最後に意見を言うのをやめて、最初に言ってほしい」
小野寺は、その場でメモを取った。意外な答えだった。成果や数字の話だと、思っていた。
その翌月は、評価の基準を、聞いた。
三つ目の質問まで、結局、三か月かかった。
小野寺は、三か月かけて、聞いた。質問は、全部、前から決めていたものだった。変わったのは、一回に聞く数だけだった。
部長は、三回目の1on1の最後に、言った。
「小野寺、最近、聞いてくれるようになったな」
小野寺は、答えなかった。 最初から、聞きたかったのだ、とは、言えなかった。
この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。