悩みのテーマ 話し方・説明のフレームワーク

Story

製薬会社の営業企画が、報告の一行目に結論を置いた話

製薬・中堅 営業企画・30代後半 人間関係

部長が、資料から顔を上げた。

「で、結局、何をしてほしいの」

平野は、手元の三ページを見た。月次の営業状況の報告。地域別の訪問件数、医療機関ごとの動き、担当者のコメント。夜遅くまでかけてまとめた。

「あの……ですから、こういう状況でして」

「それは、読んだよ」

部長の声は、怒ってはいなかった。ただ、少し疲れていた。

「状況は、分かった。だから、私に、何をしてほしいの」

平野は、答えられなかった。


席に戻って、資料を見返した。

どこにも、書いていなかった。状況は、丁寧に書いてあった。理由も、数字も、そろっていた。ただ、どこにも「だから、こうしたい」がなかった。

隣の席の先輩が、コピー用紙を取りに来た。平野は、思わず聞いた。

「報告って、どこに、結論を書いてますか」

先輩は、少し考えた。

「一行目。どうしてほしいか、が先。それから、理由」

「でも、それが決まってなくて」

「そういうときは、決まってないって、先に書けばいいよ」

簡単なことのように、言った。平野は、簡単ではないと思った。


次の月、平野は、資料を作る前に、紙に一行書いた。

「来月の訪問計画を、地域別から、医療機関別に変えたい」

書くのに、二時間かかった。地域別に集計するのが、いつもの流れだった。その流れを、一度、止めないと書けなかった。

次に、理由を一つ。

「地域別だと、重点の医療機関が、他の訪問に埋もれるため」

具体例を、一つ。

「先月は、上位五施設への訪問が、全体の一割しかなかった」

最後に、もう一度、結論を書いた。

三ページの資料は、一枚になった。


報告の日、平野は、一行目から読んだ。

「来月の訪問計画を、地域別から、医療機関別に変えたいと考えています」

部長が、資料を見たまま、頷いた。

「理由は」

平野は、二行目を読んだ。具体例を、一つ足した。

「分かった。やろう。必要な人員は」

「今の人数で、できます」

「じゃあ、それで」

三分で、終わった。

平野は、席に戻って、しばらく、何もできずに座っていた。三ページを書いていた夜が、嘘のようだった。


結論が決まっていない月も、ある。

そういう月、平野は、一行目に、こう書く。

「まだ結論は出ていませんが、状況を三点、報告します」

部長は、「うん」と言って、資料を手に取る。結論を待たずに、聞く構えになる。

それだけのことが、半年前の平野には、思いつけなかった。

この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。

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