悩みのテーマ 上司・同僚との関係

Story

通信会社の主査が、年下の課長の指示に、一拍おいて質問を返した話

通信・インフラ 主査・50代前半 人間関係

異動の辞令が出て、新しい課長は、十二歳年下だった。

主査の大西は、驚かなかった。そういう時代だと、頭では分かっていた。

初日に、課長が言った。

「大西さん、この資料、今日中に、この形式に直してもらえますか」

大西は、返事をしようとして、口を閉じた。胸のあたりが、少し熱かった。


指示の内容は、間違っていなかった。形式も、理にかなっていた。

それでも、むっとした。

大西は、自分でも、理由が分かった。内容ではなく、言い方でもなかった。年下に、頼まれる形で言われたことに、引っかかったのだった。

その日は、黙って直した。

次の日も、同じことが起きた。

「この数字、明日の朝までに、確認をお願いします」

大西は、言い返した。

「前にも、同じ確認をしましたが」

課長は、一瞬、固まった。

「すみません。では、いいです。私がやります」

その日の午後、課の空気が、少し重かった。


家に帰って、大西は、考えた。

自分は、何に、むっとしているのか。内容か。言い方か。立場か。

三つに分けると、答えは、はっきりしていた。三つ目だった。

それは、課長の問題ではなかった。


翌週、同じような指示が来た。

「大西さん、この件、今週中にお願いできますか」

大西は、言った。

「承知しました。少し、確認させてください。目的は、来週の会議の資料、でよろしいですか」

課長は、少し驚いた顔をして、頷いた。

「そうです。実は、役員への説明で使うので、数字の根拠を、一枚にまとめたいんです」

「それなら、前回の確認の結果を、使えます。二時間で出せます」

課長の表情が、少し緩んだ。

「助かります」


その夜、大西は、手帳に書いた。

むっとしたときは、返事を一拍おく。確認の質問に変える。

それだけで、課長の答えが、変わった。指示の目的が、見えた。

年下の課長は、最初から、頼み方を知らなかっただけかもしれない。大西は、そう思うことにした。

翌朝、課長が、席に来て言った。

「大西さん、今週の確認、先にお伝えしておきます」

大西は、小さく頷いた。

この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。

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