悩みのテーマ 中間管理職・板挟み

Story

建設会社の課長が、板挟みの期限を「半分」にして返した話

建設・中堅 課長・40代後半 人間関係

部長が、課長席の前に立った。

「年度末までに、全現場の安全点検を、新しい様式に切り替えてほしい」

課長の古川は、頷いた。反射だった。

席に戻って、現場の主任たちを見渡した。十二の現場。人手は、足りない。決算期と重なる。


その週の主任会議で、古川は、部長の言葉をそのまま伝えた。

「年度末までに、全現場で、新しい様式に切り替える」

主任の一人が、小さく息をついた。

「全部、ですか。今月は、二現場、欠員が出ています」

古川は、言葉に詰まった。部長にも、主任にも、反論できなかった。どちらも、正しかった。

会議は、何も決まらずに終わった。


その夜、古川は、紙に三行を書いた。

上の言い分。年度の計画に入っていて、監査の前に揃えたい。下の言い分。欠員が出ていて、決算の対応と重なる。自分の判断。

三行目が、空欄だった。

古川は、しばらく考えて、書いた。

欠員のない六現場なら、年度末までに、できる。


翌日、古川は、部長のところへ行った。

「できます。ただ、条件があります」

部長は、眉を上げた。

「全部は難しいので、欠員のない六現場を、年度末までに切り替えます。残りの六現場は、来年度の第一四半期でお願いできませんか」

「全部ではないのか」

「監査で見られるのは、先に六現場です。そこは、確実に揃えます」

部長は、少し黙って、手帳をめくった。

「監査の対象は、六現場だったな。それなら、いい」


主任会議で、古川は、決まったことを伝えた。

「上は、年度末までに、と言っている。範囲は、半分に絞った。欠員のない六現場を先にお願いしたい。残りは、来年度の最初だ」

主任の一人が、言った。

「それなら、できます」

古川は、返事を聞いてから、気づいた。断ったわけではなかった。ただ、できる範囲を、先に言っただけだった。

それでも、二人とも、怒らなかった。

古川は、手帳に、小さく書いた。「条件は、先に、一つだけ」

この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。

悩みのテーマ

「中間管理職・板挟み」を、続けて読む

このテーマの記事を、読む順番で見る