悩みのテーマ 職場の不満・会社の不安 関連 中間管理職・板挟み

Story

受託開発のプロジェクトマネージャーが、悪い報告の最初の一言を決めた話

受託開発 プロジェクトマネージャー・40代前半 人間関係

悪い報告は、いつも、夕方に来る。

西村は、モニターの隅の時計を見た。十八時二十分。

後ろに、人の気配があった。若手の岡田が、タブレットを持って立っている。

「西村さん、少し、いいですか」

「うん」

「あの、結合テストで、不具合が、見つかって」

西村は、キーボードから手を離した。

「いつ、見つかった」

岡田は、少し間を置いた。

「……昨日の、午前です」

西村は、無意識に、息を吐いた。長く。

岡田の肩が、わずかに落ちた。


その夜、先輩のプロジェクトマネージャー、桜井と、駅まで一緒に歩いた。

桜井は、同じ会社に二十年いる。西村が、入社した頃から、よく相談に乗ってもらっている。

西村は、岡田のことを話した。報告が遅い。毎回、夕方になってから来る。昨日のことを、今日、言う。

桜井は、信号待ちで、前を向いたまま、言った。

「それ、西村さんの顔に、出てると思うよ」

「顔」

「悪い報告のとき。息、吐くでしょう。聞こえるよ、後ろまで」

西村は、返事ができなかった。

「岡田くん、たぶん、報告を遅らせてるんじゃなくて、怒られる時間を、先に延ばしてるんだと思う」


翌朝、西村は、手帳の見開きの右端に、一行書いた。

「教えてくれて、ありがとう」

悪い報告を受けたときの、最初の一言にする。何が起きたかを聞くのは、そのあとだ。

声に出して、練習してみた。誰もいない会議室で。

「教えてくれて、ありがとう」

棒読みだった。自分でも、嘘くさいと思った。

けれど、息を吐くよりは、ましだと思った。


その週の木曜、また、報告が来た。

今度は、別の若手の、小田だった。昼過ぎ、西村の席に、ためらいがちに来た。

「すみません、画面の仕様書の、解釈を、間違えていました」

西村は、口を開きかけた。息を、吸った。

「教えてくれて、ありがとう」

声が、少し硬かった。けれど、小田の顔が、動いた。

「いえ、あの」

「何が、起きたの」

それから、小田は、順番に説明した。仕様書の二箇所。どちらの解釈をしていたか。どこまで、作ってしまったか。

西村は、最後まで、遮らなかった。

聞いたあとで、自分の失敗も、一つ、言った。

「見積もりのとき、工数を、読み違えた。あれは、俺の側の間違いだった。先に言っておく」

小田は、驚いたように、西村を見た。


月曜の定例では、会議の終わりに、一人ずつ聞くことにした。

「何か、意見は」と全員に聞いても、誰も何も言わない。それは、前から知っていた。

「別の見方があれば、一つずつ、聞かせてください」

岡田は、最初の人だった。

「……画面遷移の、テストの順番、変えたほうが、いいかもしれません」

西村は、ノートに書いた。

「教えてくれて、ありがとう」

その言葉は、もう、棒読みでは、なかった。


一か月後。

悪い報告が、昼に、来るようになった。

午前十一時。西村の席の後ろで、岡田が、タブレットを持って立っていた。

「西村さん、さっき、見つけたんですが」

「うん」

西村は、キーボードから、手を離した。息は、吐かなかった。

この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。

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