悩みのテーマ お金・家計・将来不安

Story

書店の店長が、ねんきん定期便を、三か所だけ読んだ話

書店 店長・50代前半 お金

店長の川上は、自宅の、引き出しを、開けた。

封筒が、何通も、重なっていた。

ねんきん定期便。誕生月に、毎年、届く。開けずに、しまっていた。

見るのが、怖かった。

数字を見ると、老後が、不安になる。そう思って、先延ばしにしていた。


その夜、妻が、言った。

「そろそろ、見ておいたほうが、いいんじゃない」

川上は、頷いた。

最新の一通を、取り出した。

封を、開けた。

思っていたより、薄い、紙が、出てきた。

最初に、加入期間を、見た。

二十二歳から、今まで。途中、転職の時期も、ちゃんと、記録されていた。

抜けは、なかった。


次に、納付状況を、見た。

未納は、なかった。

川上は、少し、ほっとした。

それから、見込額を、見た。

数字は、思っていたより、少し、少なかった。

川上は、息を、吐いた。

説明欄を、読んだ。今の条件が、続いた場合の、見込み。働き方や、受け取りを始める年齢で、変わる。

数字は、決まった未来では、なかった。


翌日、川上は、見込額を、手帳に、写した。

家の、毎月の生活費も、並べた。

足りない分が、見えた。

妻が、聞いた。

「どうする?」

「まず、できることを、一つ、決めよう」

川上は、書いた。

働く年数を、考える。貯蓄の積み立てを、増やす。

「どっちも、すぐには、決められないな」

「それでも、見えたのは、良かったわね」

川上は、頷いた。


次の誕生月、また、定期便が、届いた。

川上は、その週のうちに、開いた。

三か所を、確認して、手帳に、三行、書いた。

去年と、比べた。数字は、わずかに、上がっていた。

店に、行くと、アルバイトの、若い店員が、聞いた。

「店長、何か、いいこと、ありました?」

「去年より、少し、見通しが、良くなった」

「何のですか」

「それは、また、今度」

川上は、笑って、レジの、箱を、運んだ。

この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。

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