地方新聞社のデスクが、職務経歴書を一晩で書いてみた話
辞めるつもりはなかった。書けるかどうかを、知りたかっただけだった。
読むStory
課長の岡部のもとに、実家の母から、電話が来た。
「父さんが、転んでね。軽く、すんだけど」
岡部は、電話を持ったまま、立ち尽くした。
父は、八十歳になっていた。
介護が、始まる日が、来るかもしれない。
そう思っても、何から、手をつけていいのか、分からなかった。
その夜、岡部は、パソコンで、調べた。
介護の、相談先。
地域包括支援センター、という言葉が、何度も、出てきた。
実家のある市の、窓口を、調べた。住所と、電話番号が、出た。
岡部は、メモに、書いた。
それだけだった。それだけで、少し、安心した。
週末、岡部は、妹に、電話した。
「父さんの、こと、だけど」
妹は、すぐに、答えた。
「私も、考えてた。ちゃんと、話したいと、思ってた」
二人は、一時間、話した。
誰が、何を、できるか。岡部は、仕事の都合を、考えた。妹は、実家に近い。費用は、どう、分けるか。
結論は、まだ、出さなかった。ただ、確認した。
次の週末に、実家で、父と母を、交えて、話すことに、決めた。
月曜日、岡部は、人事部に、連絡した。
「親の介護の、制度について、確認したいのですが」
担当者の、桜井は、丁寧に、答えた。
「介護休業と、介護休暇があります。時差出勤や、在宅勤務も、相談できます。社内の、相談窓口も、あります」
岡部は、パンフレットを、受け取った。
使うかどうかは、まだ、分からない。ただ、あると、分かっただけで、肩の荷が、軽くなった。
次の週末、岡部は、実家で、父と、話した。
「困ったとき、どこに、連絡するか、決めておきたい」
父は、少し、渋い顔を、した。
「まだ、元気だ」
「分かってる。元気なうちに、決めたいんだ」
母が、横から、言った。
「かかりつけの先生と、薬のことは、まとめておいたほうが、いいかもね」
岡部は、母と一緒に、一枚の紙に、まとめた。
かかりつけ医。薬。保険証の場所。
三か月後、父が、体調を、崩した。
岡部は、慌てなかった。
地域包括支援センターに、電話した。担当者は、親切に、教えてくれた。
妹と、役割を、分けた。
人事に、介護休暇の、取り方を、相談した。
手帳の最初の頁に、岡部は、書いてあった。
窓口の、電話番号。
あの夜、書いた、一行が、いちばん、役に立った。
この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。
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