地方新聞社のデスクが、職務経歴書を一晩で書いてみた話
辞めるつもりはなかった。書けるかどうかを、知りたかっただけだった。
読むStory
課長の石川は、人事から届いた、書類を、見つめていた。
定年まで、三年。
継続雇用の、制度の案内だった。
何も、準備していなかった。
毎日の、仕事に、追われて、先のことは、考えないようにしてきた。
ただ、案内を、読むと、急に、現実味が、増した。
その夜、石川は、紙に、三つ、書いた。
働き方。収入。つながり。
働き方。継続雇用を、希望するのか、別の仕事に、移るのか。
収入。再雇用後の、収入の目安。年金の、見込み。毎月の、生活費。
つながり。会社の、外に、話せる相手が、いるか。
三つ目に、書いたとき、手が、止まった。
会社の外に、いなかった。
翌週、石川は、人事に、制度を、確認した。
継続雇用の、条件。再雇用後の、給与の、目安。働く日数の、選択肢。
担当者が、説明した。
「定年後は、週四日、勤務も、選べます」
石川は、メモを、取った。
家に帰って、妻に、見せた。
「定年後の、見通しを、書いてみた」
妻は、紙を、じっくり、読んだ。
「収入は、どれくらい、減るの」
「再雇用で、今の、六割くらい。年金の見込みも、合わせると、毎月の、生活費は、足りる計算だ」
「足りない月は?」
「子どもの、学費が、重なる、二年目。そこだけ、貯蓄から、補う」
妻は、頷いた。
「それなら、確認できて、安心ね」
つながりの、準備は、一番、時間が、かかった。
石川は、月に一度、昔の、同僚に、会うことにした。
別の会社に、移った、元の部下。取引先の、担当者。
最初の月、元の部下の、佐藤と、昼食を、食べた。
「課長、定年のあとは、どうされるんですか」
「まだ、決まっていない。ただ、考え始めた」
佐藤は、言った。
「地域の、勉強会に、行ってみたら、どうですか。私も、行っています」
石川は、手帳に、書いた。
二年後、石川は、地域の、勉強会に、通うようになっていた。
会社の外に、顔を、知る人が、できた。
定年の、一年前、石川は、妻と、最後の、確認を、した。
働き方は、週四日の、継続雇用。収入は、見通しが、立った。つながりは、できつつあった。
石川は、紙を、手帳に、貼った。
定年は、決まった日に、来る。三年前から、準備する。
その下に、足した。
家族と、一緒に、見る。
この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。
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