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やる気の法則11。目標勾配・自問・同調など、仕事での使い方
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やる気は、気持ちの問題として扱うと、「頑張れ」で終わります。心理学や行動科学の研究には、やる気の出方を、条件の側から説明したものがいくつもあります。
ここでは、池田貴将『図解 モチベーション大百科』(サンクチュアリ出版)に出てくる用語のうち、筆者が仕事で使えると感じたものを、使い方の形に直しました。本の要約ではありません。それぞれの背景にある研究は、出典を添えています。
先に断っておくこと。研究の結果は、条件や文化、人によって出方が変わります。「必ずこうなる」ではなく、「試してみる価値がある」くらいに受け取ってください。
どの場面なら、どの法則か
| いまの場面 | 試す法則 |
|---|---|
| 朝、最初の一手が出ない | 小分け戦略/自問式セルフトーク |
| 終わりが見えない仕事が続く | 目標勾配/消費ゴール |
| チームの動きが重い | 同調状態 |
| 報酬やルールで人を動かそうとしている | 罰金と報酬/内発的動機づけ |
| 言うことを聞いてくれない、反発される | 心理的リアクタンス |
| 会議で、誰も質問しない | 集合的無知 |
| 見積もりや予測が、いつも外れる | 自信過剰バイアス |
自分を動かす
1. 目標勾配
ゴールが近づくほど、動きが速くなる傾向のことです。コーヒーのスタンプカードを使った研究(Kivetz ら, 2006)では、スタンプが貯まるほど、来店の間隔が短くなりました。
- 使い方:「残り何件」と、ゴールまでの距離が見える形にする
- 終わりの見えない仕事は、区切りを自分で作って、「あと3つ」で数える
2. 小分け戦略
遠い目標だけでなく、近い目標を持つほうが、取り組みが続きやすいという考え方です。算数に苦手意識のある子どもを対象にした研究(Bandura と Schunk, 1981)で、近い目標に区切って取り組んだ子どもは、遠い目標だけの子どもや、目標のない子どもより、上達と興味の両面で上回りました。
- 使い方:月の目標を、今日できる大きさまで割る
- 1日の終わりに、「明日の最初の1つ」だけを決めておく
3. 自問式セルフトーク
自分に「やる」と言い切るより、「やるだろうか」と問いかけたほうが、あとの課題の成績がよかったという実験があります(Senay ら, 2010)。小規模な実験なので、効果の大きさは慎重に見たほうがいいですが、試すのに手間はかかりません。
- 使い方:「今日こそやるぞ」ではなく、「今日、最初に何をするか」と自分に聞く
4. マインドセット
能力は経験で伸びると捉える成長型と、決まっていると捉える固定型の違いを扱った研究(Dweck)です。ただし、短い介入で成績が上がる効果は小さいとする分析もあります(Sisk ら, 2018)。万能の道具ではなく、言葉の選び方を見直すきっかけとして使うのが合います。
- 使い方:「できない」と思ったら、「まだ、できない」と言い換える
5. 消費ゴール(ごほうびを予定する)
ここは、本の見出しにある考え方を、日常の使い方に直したものです。ごほうびを、その場の思いつきではなく、日付つきで先に決めておきます。
- 使い方:「この資料を出したら、金曜の夜に好きなものを食べる」と、先に書く
- ごほうびは、やり終えたあとに考えず、始める前に決める
人を動かす
6. 同調状態
動きを合わせると、人は協力しやすくなるという研究があります。歩調を合わせて歩いた人たちは、そのあとの協力課題で、より協力する傾向が見られました(Wiltermuth と Heath, 2009)。
- 使い方:重い仕事の前に、全員で一緒に5分だけ手を動かす(片付け、準備、ホワイトボードを書く)
- 会議の最初の1分は、同じ資料を、全員で同時に読む
7. 内発的動機づけ
もともと好きでやっていたことに、外から報酬をつけると、報酬がなくなったあとに、その行動が減ることがあります。もともと絵を描くのが好きな幼稚園児を対象にした研究(Lepper ら, 1973)では、描くと賞状がもらえると予告された子どもは、1〜2週間後の自由時間に、絵を描く時間が減りました。
- 使い方:好きでやってくれている仕事に、後付けのご褒美を乗せない。代わりに、「それが何の役に立ったか」を言葉で伝える
8. 罰金と報酬
守ってほしいことに罰金をつけたら、かえって守られなくなったという研究があります。イスラエルの保育園で、お迎えの遅刻に罰金を導入したところ、遅刻が増えました(Gneezy と Rustichini, 2000)。罰金が「遅れる料金」として受け取られ、後ろめたさが薄れたためだと解釈されています。罰金をやめても、遅刻は減りませんでした。
- 使い方:守ってほしいことに、金額のルールを足す前に、理由を説明する
- 守られたとき、それを言葉で認める
9. 心理的リアクタンス
自由を制限されたと感じると、人はその行動を取りたくなる、という考え方です(Brehm, 1966)。「やめろ」と言われるほど、やりたくなる経験は、誰にでもあります。
- 使い方:「やれ」ではなく、選択肢を2つ出して、選んでもらう
- 「やらないほうがいい」と禁じる代わりに、理由と、やった場合に起きることを伝える
判断を誤らない
10. 集合的無知
みんなが内心では疑問を持っているのに、周りが何も言わないので、「疑問に思っているのは自分だけだ」と判断して、全員が黙る状態です。大学生の飲酒を扱った研究(Prentice と Miller, 1993)では、多くの学生が、キャンパスの飲酒の習慣に対して、自分のほうが平均的な学生より居心地の悪さを感じていると考えていました。実際には、同じように感じている学生が多かったのに、です。
- 使い方:会議の最後に、「分かりにくかった点」を、紙に書いて集める
- 上の立場の人が、先に「実は、ここは分かりませんでした」と言う
11. 自信過剰バイアス
自分の知識や予測の正しさを、実際より高く見積もる傾向です。見積もりや予測で、「今回は大丈夫」と思ったものが外れる、という形でよく出ます。
- 使い方:見積もりの前に、過去に外れた例を、3つ書き出す
- 期間や金額は、「今回の見込み」ではなく、過去の実績から出す
使うときの注意
- 全部は試さない。気になった1つを、今週1回だけ。うまくいかなかったら、次の1つへ
- 人に使うときは、隠さない。「こういう理由で、この形にしたい」と、やり方ごと伝えます。操作されたと感じると、反発が出ます
- 研究は、あくまで目安。自分の職場で試して、確かめるものです
本について
図解 モチベーション大百科
こんな夜に。やる気を、気持ちではなく仕組みの側から考え直したいとき。部下や後輩への関わり方を見直したいとき。
出版社の案内では、約100の心理・行動実験の結果を図解でまとめた本です。見出しと短い一文で、1項目ずつ読めます。気になった項目から拾い読みできます。
合わないかもしれない人:各実験の条件や人数まで詳しく知りたい人には、短すぎます。原典の論文にあたる必要があります。