悩みのテーマ 部下の育て方・指示の出し方 関連 評価の伝え方・後輩の育て方・成長

Story

自動車販売店の店長が、「さすが」をやめて、見たことを一行で伝えた話

自動車販売店 店長・40代後半 評価・給料

「さすがだな」

店長の内田は、成約した営業の若手、岡田に、そう声をかけた。

「ありがとうございます」

岡田は、頭を下げた。それだけだった。

内田は、いつも、そうしていた。ほめているつもりだった。


月末の面談で、岡田が、ぽつりと言った。

「店長に、さすがと言われると、うれしいんですが」

「うん」

「何が、よかったのか、分からなくて」

内田は、言葉が出なかった。

「次も、同じようにしていいのか、分からないんです」

内田は、その夜、手帳に書いた。

何が、よかったのか。自分は、何を見て、「さすが」と言ったのか。

思い出せなかった。見ていなかったのだ。


翌週、内田は、商談のそばに、立ってみた。

岡田は、お客様に、聞いていた。

「この車を、どなたが、いちばん多く、運転されますか」

お客様は、奥さんだと答えた。岡田は、運転席を、奥さん向けに、調整した。

内田は、メモを取った。

商談のあと、内田は、岡田に言った。

「運転する人を、最初に聞いた。それで、シートの調整が、早かった。お客様が、その場で、乗りやすいと言っていた」

岡田は、目を、見開いた。

「見てたんですか」

「見てた。次の商談も、最初に、その質問をしてくれ」


その日から、内田は、週に一人、一つだけ、見たことを伝えた。

「見積書の最後に、納車までの流れを、一行書いていた。お客様が、安心した顔をしていた」

「電話のあと、メモを、すぐ残していた。次の担当者が、すぐ動けた」

三週間目、岡田が、自分から言った。

「店長。この前の、運転する人を聞く話ですが」

「うん」

「後輩にも、教えてもいいですか」

内田は、少し、間を置いた。

「頼む」


月末、店の壁の、成約表に、数字が並んだ。

内田は、手帳に、一行、足した。

さすがは、やめた。見たことを、言う。

その横に、岡田の名前と、小さく、書いた。

ありがとう、と。

この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。

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