化学メーカーの品質管理課長が、説明会で白い紙を回した話
全員が、うなずいていた。全員が、分かっていなかった。
読むStory
「それは、こうすれば、いいですよ」
事務長の中島は、受付の主任、大野の話を、半分も聞かずに、言った。
大野は、黙った。
「分かりました」
そう言って、席を立った。
中島は、納得してもらえたと、思っていた。
その週の金曜、事務の女性が、小さな声で、言った。
「事務長は、話を、聞いてくれないと、みんな、言っています」
中島は、驚いた。
「聞いているよ。すぐ、答えているじゃないか」
「答えは、いいんです。聞いて、ほしいだけで」
中島は、その夜、本棚から、一冊、本を取り出した。共感のことが書いてある、薄い本だった。
三つの練習が、書いてあった。状況を返す。感情に、名前をつける。自分の話を、足さない。
翌週の月曜、大野が、また、相談に来た。
「受付の待ち時間の件なんですが。朝の八時半が、特に、集中して」
中島は、口の中まで、出かけた。それなら、受付を、増やせばいい。
飲み込んだ。
「朝の八時半に、受付が、集中しているんですね」
大野は、少し、驚いた顔をした。
「はい。二人で、さばいているのですが」
「二人で、さばいている。それは、大変ですね」
「大変です。患者さんに、お待たせしてしまって、申し訳なくて」
「申し訳ない、という気持ちが、ある」
大野は、頷いた。
「そうなんです」
中島は、そのまま、待った。
大野は、五分、話した。受付の動線のこと。高齢の患者さんのこと。同僚の疲れのこと。
最後に、自分から、言った。
「八時半だけ、案内の人が、一人いたら、違う気がします」
中島は、メモを取った。
「提案として、聞かせてもらった。検討する。金曜までに、返事をする」
大野が、部屋を出てから、中島は、手帳に、書いた。
今日は、解決策を、一つも、言わなかった。
それでも、相談は、前に、進んだ。
金曜、中島は、約束通りに、返事をした。案内係は、週に二日、試すことになった。
大野は、頭を下げた。
「事務長、最近、話しやすいです」
中島は、少し、笑った。
「同意したわけじゃないよ。聞いていただけだ」
「それが、いいんです」
中島は、窓の外を見た。駐車場に、朝の光が、残っていた。
この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。
Stories
人間関係の話を先に並べています。
全員が、うなずいていた。全員が、分かっていなかった。
読む五百円払えば、それで済む。そういう顔が、増えた。
読む悪い報告は、いつも、夕方に来る。
読む全部引き受けるのが、課長の仕事だと思っていた。
読む愚痴なら、毎日言っていた。
読む三ページ読んでも、何をしてほしいのか分からないと言われた。
読む言ったつもりだった。伝わったのは、機嫌だけだった。
読む質問は、聞くための道具だと思っていた。
読む悩みのテーマ