化学メーカーの品質管理課長が、説明会で白い紙を回した話
全員が、うなずいていた。全員が、分かっていなかった。
読むStory
物流センターの出荷ラインで、誤出荷が出た。
主任の坂本は、翌朝、伝票を見て気づいた。宛先が、一件、違っている。
担当は、入社二年目の杉山だった。
杉山は、その日、何も言ってこなかった。
昼を過ぎても、言ってこない。坂本は、杉山のほうを見た。目が合うと、すぐに逸らされた。
夕方、杉山は、小さな声で言った。
「あの、主任。出荷の件で」
「ああ、宛先の件か」
杉山の肩が、びくりと動いた。
坂本は、少し間をおいて、言った。
「教えてくれて、ありがとう」
杉山は、顔を上げた。
「え」
「気づいていたんだな。それを、言いに来てくれた。助かった」
杉山の口が、半分、開いたまま、止まった。
坂本は、続けた。
「いま、集荷の連絡を止めれば、間に合う。どうする」
「……電話します」
「うん。一緒に行こう」
荷物は、無事に、止まった。
事務所に戻る廊下で、杉山が、ぽつりと言った。
「叱られると、思っていました」
「叱らないよ」
「前の職場では、報告したら、人前で怒られたんです。それから、言えなくなって」
坂本は、歩きながら、頷いた。
「間違えること自体は、ある。困るのは、気づいて、黙っていることだ」
杉山は、足を止めた。
「黙っていたほうが、危ないんですね」
「そう。早く言ってくれれば、直す手間は小さい」
翌週、坂本は、朝礼で、自分の失敗を話した。
「先月、私も、数量を一桁間違えて、発注した。気づいたのは、納品の前日だった」
誰かが、小さく、笑った。
「それで、確認の項目を三つ、決めた。宛先、数量、期限。出荷の前に、三つだけ見る」
杉山は、手帳に、三つを書いた。
三週間後、杉山が、また、坂本のところに来た。
「主任。いま、気づいたんですが」
声は、前よりも、普通だった。
「ラベルの色が、一枚、違っています。まだ、積む前です」
坂本は、立ち上がった。
「見せて」
小さな間違いだった。ラベルを、貼り替えた。
「教えてくれて、ありがとう」
杉山は、少し、照れたように笑った。
その日の夕方、ラインの隅で、杉山が、新人に、小声で言っているのが聞こえた。
「間違えたら、すぐ言ったほうがいいよ。主任、怒らないから」
坂本は、聞こえないふりをして、通り過ぎた。
廊下の窓から、トラックのライトが、見えた。
この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。
Stories
人間関係の話を先に並べています。
全員が、うなずいていた。全員が、分かっていなかった。
読む五百円払えば、それで済む。そういう顔が、増えた。
読む悪い報告は、いつも、夕方に来る。
読む全部引き受けるのが、課長の仕事だと思っていた。
読む愚痴なら、毎日言っていた。
読む三ページ読んでも、何をしてほしいのか分からないと言われた。
読む言ったつもりだった。伝わったのは、機嫌だけだった。
読む質問は、聞くための道具だと思っていた。
読む悩みのテーマ