悩みのテーマ ハラスメントの見分け方・対処

Story

自動車部品メーカーの課長が、「指導のつもり」を、三つの線で見直した話

自動車部品メーカー 課長・40代後半 人間関係

「この数字は、何回言ったら、分かるんだ」

課長の松田は、会議室で、声を荒げた。

部下の斎藤は、うつむいた。

「こういう仕事のミスは、お前だけだ。やる気が、ないんじゃないのか」

周りの席にいた社員たちは、画面を見たまま、動かなかった。

松田には、悪意はなかった。納期が迫っていた。品質が落ちるのが、怖かった。

指導の、つもりだった。


翌週、斎藤が、休んだ。

その次の週も、休んだ。

「体調不良、とのことです」

人事の担当者に、そう言われて、松田は、頷いた。

廊下で、同僚の課長が、声をかけた。

「斎藤くんのこと、聞いたよ。松田さんの、叱責が、きつかったという声が、出ている」

松田は、言葉を、失った。

「指導の、つもりだった」

同僚は、静かに言った。

「つもりは、分かる。ただ、受け取る側には、違って届いていた、ということだ」


その夜、松田は、自分が、斎藤に言った言葉を、書き出した。

「何回言ったら」。「お前だけだ」。「やる気がないのか」。

事実は、数字の間違いだった。それ以外の言葉は、全部、斎藤の人格に、向いていた。

場所も、全員の見える会議室だった。

そして、「次は、どうしてほしいか」を、一度も、言っていなかった。

三つの線を、すべて、越えていた。


斎藤が、復職する日、松田は、会議室ではなく、別室で、二人だけで、話した。

「先日の言い方は、間違っていた。数字のミスを指摘するところから、人格の話にまで、踏み込んだ。申し訳なかった」

斎藤は、黙って、頷いた。

「これから、数字のことは、数字の話だけにする。場所は、別室。次に、どうしてほしいかを、必ず、言う」

斎藤は、少し、考えて、言った。

「ありがとうございます」

それ以上は、言わなかった。


その後、松田は、感情が高ぶったときの決まりを、作った。

六秒、息を吐く。席を外す。翌日に回す。

最初の月は、二回、席を外した。

三か月後、斎藤が、提出した資料に、数字の間違いが、一か所、あった。

松田は、別室に呼んで、言った。

「ここの数字が、二か所、違う。提出前に、もう一度、確認してほしい」

斎藤は、頷いた。

「分かりました。確認します」

それで、終わった。

会議室を出るとき、松田は、少しだけ、足を止めた。

三つの線の、どこも、越えていなかった。

この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。

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