化学メーカーの品質管理課長が、説明会で白い紙を回した話
全員が、うなずいていた。全員が、分かっていなかった。
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営業所の休憩室は、ときどき、空気が重かった。
ベテラン運転手の石川と、若手の田中が、シフトのことで、揉めていた。
「繁忙期は、残るのが、当たり前だろう」
「前もって、言ってもらえれば、調整します。急に言われても、困ります」
所長の三浦は、二人の間に立って、ため息をついた。
世代の違いだ、と思った。「いまの若い者は」と、口に出しかけて、止めた。
その夜、三浦は、紙を、出した。
三つの軸を、書いた。仕事の時間。上下の関係。仕事の意味。
石川の欄に、書いた。繁忙期は、残るもの。上が決めたことには、従う。仕事は、会社への貢献。
田中の欄に、書いた。決まった時間で、決まった成果。役割が違うだけで、意見は、言う。仕事は、自分の生活の、一部。
書いてみると、二人は、**同じものを、見て**いなかった。
翌日、三浦は、石川を、別室に呼んだ。
「石川さんは、繁忙期に残るのは、当たり前、と考えている。それは、どこから、来ているんですか」
石川は、少し、驚いた顔をした。
「若い頃から、そうだったからな。繁忙期に、みんなで、残る。それで、助け合った」
三浦は、頷いた。
「助け合うことが、大事だったんですね」
「そうだ」
田中のほうにも、同じことを、聞いた。
「前もって、言ってほしい。それは、なぜですか」
田中は、少し、考えた。
「子どもの、迎えがあるんです。分かっていれば、妻と、調整できます」
三浦は、メモを取った。
三日後、三浦は、石川と田中を、同じ部屋に呼んで、紙を、見せた。
「これは、二人の、前提を、並べたものです。どちらが、正しいかは、決めません」
二人は、紙を、見つめた。
石川が、先に、口を開いた。
「そういう事情が、あったのか」
田中は、小さく、言った。
「石川さんが、助け合いを、大事にしていることは、分かりました」
三浦は、続けた。
「共通の前提を、一つだけ、作りたい。繁忙期の一か月は、残業を、お願いする。その前に、理由と期間を、必ず、伝える」
二人は、頷いた。
次の繁忙期、三浦は、一か月前に、全員に、伝えた。
理由は、団体旅行が、集中すること。期間は、十一月の、二週間。
田中は、妻と、調整した。
石川は、若手に、声をかけた。
「その二週間、うちの子の、練習も、見てやってくれ」
休憩室の空気が、少しだけ、軽くなった。
三浦は、紙を、デスクの引き出しに、しまった。
ときどき、取り出して、見た。
この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。
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