化学メーカーの品質管理課長が、説明会で白い紙を回した話
全員が、うなずいていた。全員が、分かっていなかった。
読むStory
「それ、昨日も、教えたよね」
リーダーの森田は、新人の石井の画面を、覗き込んで、言った。
石井は、小さく、頷いた。
「すみません」
また、同じ質問だった。顧客情報の、変更の手順。三日前にも、昨日も、教えた。
森田は、ため息を、飲み込んだ。
その夜、森田は、自分が、教えた内容を、思い出した。
研修の初日に、一度に、十個の手順を、説明していた。
石井は、頷いていた。メモは、取っていなかった。
聞かれたら、口頭で、答えていた。
覚えられないのは、石井ではない。残らない教え方を、していた。
翌日から、森田は、教え方を、変えた。
一日、一つだけ。
その日は、顧客情報の、変更の手順に、決めた。
まず、森田が、画面を見せながら、やって見せた。次に、石井と、一緒に、やった。最後に、石井に、一人で、やってもらった。
森田は、横で、見ていた。
間違えたら、その場で、止めた。
手順書も、作った。五つの手順に、画面の写真を、貼った。
石井も、自分のノートに、書いた。
夕方、森田は、言った。
「今日は、これだけ。明日の朝、もう一回、聞くから」
翌朝、森田は、一分だけ、確認した。
「昨日の、顧客情報の変更。手順、覚えているか」
石井は、ノートを、見ずに、答えた。
「一、顧客番号を、確認。二、変更の項目を、選ぶ。三」
三番目で、止まった。
「三は、本人確認、ですよね」
「そう。一つだけ、抜けた。もう一回、やろう」
石井は、画面を、操作した。
二週間が、過ぎた。
石井は、教わった手順を、十個、覚えた。
覚えた順に、手順書に、印がついていた。
ある日、石井は、自分から、言った。
「私、見て覚えるより、書いて覚えるほうが、合っているみたいです」
「それは、いい発見だ」
森田は、手帳に、書いた。
教えるのが、下手だったのは、自分だった。
その下に、続けた。
一日一つ。見せて、やってもらって、翌日に、確認する。
この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。
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