悩みのテーマ 世代間のズレ・「老害」と言われる人

Story

鉄道会社の課長補佐が、「昔は」を「ある案件では」に言い換えた話

鉄道会社 課長補佐・50代前半 人間関係

「昔は、こうやって、現場で確かめたんだ」

課長補佐の片山が言うと、若手の水野は、小さく頷いた。

ダイヤの見直し会議だった。水野は、データを使った新しい案を、出したところだった。

「データで見るのも、いいけどな」

片山は、続けた。

「現場を歩かないと、分からないことがある。昔は、始発から終電まで、駅に立った」

水野は、黙った。

会議は、片山の話で、そのまま終わった。


その週のうちに、水野は、案を引っ込めた。

片山は、安心した。自分の経験が、役に立った、と思った。

ひと月後、別の若手の三島が、席に来た。

「課長補佐、一つ、聞いてもいいですか」

「何だ」

「水野さんが、案を出さなくなったのは、僕が見ても、気になっていて」

片山は、眉を寄せた。

「どういう意味だ」

三島は、少し迷ってから、言った。

「会議で、『昔は』と言われると、新しい案は、通らない気がして。皆、先に引っ込めるんです」


その夜、片山は、手帳を開いた。

最近の会議で、自分が、「昔は」と言った回数を、数えた。

七回あった。

どの場面にも、若手は、黙っていた。

水野の案は、確かに、新しいものだった。データが、きちんとしていた。それを、自分は、昔の話で、止めた。

翌朝、片山は、水野の席に行った。

「先月の案を、もう一度、見せてくれないか」

水野は、驚いた顔をした。


水野の案を、片山は、最後まで読んだ。

「データの出し方は、よく分かった」

「ありがとうございます」

「一つだけ、昔の話をしていいか。ある案件で、終電後の保守作業が、ずれたことがある。この案だと、そこが、同じように、つまずくかもしれない。使うかどうかは、お前が決めてくれ」

水野は、メモを取った。

「ありがとうございます。そこは、確認します」

片山は、「昔は」と言わなかった。

「ある案件では」と、言った。


翌月の会議で、水野の案は、一部、採用された。

片山は、会議の最後に、言った。

「現場の確認は、水野に、頼みたい。ただ、必要なら、私の経験も、使ってくれ」

水野は、頷いた。

会議のあと、片山は、手帳に、小さく書いた。

「昔は」は、一日一回まで。

この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。

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