化学メーカーの品質管理課長が、説明会で白い紙を回した話
全員が、うなずいていた。全員が、分かっていなかった。
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「夜勤が、月に六回あるのが、つらいんです」
1on1で、部下の大野が、そう言った。
課長の渡辺は、メモを取った。頷いた。
「そうか。大変だな」
それで、1on1は、終わった。
三か月が過ぎた。
渡辺は、何度か、1on1をやった。大野は、毎回、同じ話題を、短く話した。
夜勤のことは、出なくなった。
渡辺は、安心した。もう、問題ではなくなったのだと思った。
ある日、大野が、席に来た。
「異動の希望を、出そうと思っています」
渡辺は、手を止めた。
「どうして」
大野は、少し黙った。
「夜勤の件、三か月前に話しましたが、何も変わらなかったので」
その夜、渡辺は、過去のメモを、読み返した。
「夜勤、月六回。つらい」と、書いてあった。その横に、何も、書いていなかった。
聞いた。だが、動かなかった。
大野は、動かないことを、見ていた。
渡辺は、メモの横に、日付を書いた。
翌朝、大野の席に行った。
「三か月前の件、動かなくて、悪かった。夜勤の分担は、今週、部長に相談する。来週の1on1で、結果を話す」
大野は、少し驚いた顔をして、小さく頷いた。
渡辺は、部長に、夜勤の分担表を見せた。
月六回は、大野だけではなかった。三人が、同じ回数だった。
部長は、しばらく黙って、言った。
「補充の人員は、すぐには出せない。ただ、来月から、一人を日勤に戻すことはできる」
翌週の1on1で、渡辺は、最初に、話した。
「夜勤は、来月から、月五回になる。完全には、減らせなかった」
大野は、頷いた。
「五回に、なるんですね」
「そうだ。これ以上は、いまは動かせない。ただ、三か月前に動かなかったことは、謝る」
異動の希望は、大野の手元で、止まったままだった。
数週間後、大野が言った。
「もう少し、いまの部署に、いてみます」
渡辺は、メモを取った。メモの横に、「次回までの一つ」と、書いた。
一つで、足りた。
この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。
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