化学メーカーの品質管理課長が、説明会で白い紙を回した話
全員が、うなずいていた。全員が、分かっていなかった。
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「この資料、よろしく」
副所長の杉本は、決算の説明資料を、若手の三浦の机に置いた。付箋に、金曜、と書いた。
三浦は、小さく頷いた。
「分かりました」
杉本は、自分の席に戻った。指示は、出した。
金曜の夕方、三浦が、資料を持ってきた。
十二ページあった。
杉本は、ページをめくって、手を止めた。
「これは、お客様に出す資料だ。十二ページは、読まれない」
「……お客様向けとは、聞いていませんでした。社内の確認用かと」
杉本は、言葉に詰まった。
その日のうちに、三浦は、半分に削り直した。
翌週の月曜、杉本は、三浦が作り直した資料を見た。今度は、四ページ。
数字の並べ方が、違った。
「前年比で、見せてほしい」
「前年比、ですか。前期比で、まとめていました」
三浦は、静かに言った。怒ってはいなかった。ただ、疲れた顔をしていた。
杉本は、自分の言った言葉を、思い返した。
よろしく。
それだけだった。
その夜、杉本は、次の資料の指示を、紙に書いた。
目的。期限。完了の状態。確認の日。
四つを埋めるのに、五分かかった。
翌朝、三浦の席に行った。
「来週のお客様向けの、決算説明です。社長に見せる資料になります。水曜の十七時までに。A4で三枚、数字は前年比で。月曜の朝に、一度、途中を見せてください」
三浦は、メモを取りながら、顔を上げた。
「分かりました。三枚で、前年比ですね」
月曜の朝、三浦は、二枚を持ってきた。
「途中ですが、この方向で合っていますか」
杉本は、数字の並びを見て、一か所だけ直した。
水曜の十五時、資料は、三枚で、仕上がっていた。
杉本は、一回目の指示のときの自分を、思い出した。三十秒を、惜しんでいた。
その三十秒で、二回分の金曜が、潰れていた。
この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは関係ありません。
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人間関係の話を先に並べています。
全員が、うなずいていた。全員が、分かっていなかった。
読む五百円払えば、それで済む。そういう顔が、増えた。
読む悪い報告は、いつも、夕方に来る。
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